The Jam(ジャム)のレコードガイド|おすすめ盤と選び方¶
1977年のデビューから1982年の解散まで、わずか5年間で6枚のスタジオアルバムと数多くのシングルを発表し、イギリスの音楽シーンに鮮烈な足跡を残したThe Jam。ポール・ウェラー(ボーカル・ギター)、ブルース・フォクストン(ベース・ボーカル)、リック・バックラー(ドラムス)の3人が奏でるタイトでエネルギッシュなサウンドは、パンクの荒々しさとモッズの洗練を兼ね備えた唯一無二のものでした。本記事では、The Jamのレコードをこれから集めたい方に向けて、おすすめアルバムの紹介からオリジナル盤の見分け方、中古レコード購入時のポイントまでを詳しく解説します。
The Jamとは?バンドの概要¶
The Jamは1972年にイングランド南東部のウォキングで結成され、1977年にPolydor Recordsからデビューしたスリーピースバンドです。パンクロックの勃興期にシーンへ飛び込みながらも、The WhoやSmall Facesといった1960年代のモッズバンドからの影響を公言し、モッズスーツにタイトなネクタイという出で立ちでステージに立つ姿は、安全ピンと革ジャンが主流だった当時のパンクシーンにおいて異彩を放っていました。
初期はパンクの攻撃性とR&Bのビート感を融合させたスタイルで注目を集め、やがてソングライターであるポール・ウェラーの成長とともに、ニューウェイブやソウルミュージックの要素を取り入れた洗練されたサウンドへと進化していきました。「モッズリバイバル」と呼ばれるムーブメントの中心的存在として、同時代のポストパンクバンドとも共鳴しながら、労働者階級の日常や社会の矛盾を鋭い視点で描く歌詞は、イギリスの若者たちから絶大な支持を得ました。
UKチャートでは「Going Underground」「Start!」「Town Called Malice」「Beat Surrender」と4曲のナンバーワンシングルを生み出し、アルバムもことごとく上位にランクイン。しかしながら、アメリカでは商業的な成功に恵まれず、その評価はイギリスとの間に大きな落差があります。このことが、The Jamのレコードを海外市場においてやや過小評価されたコレクターズアイテムにしている一因でもあります。
1982年、人気の絶頂期にあったポール・ウェラーが突如解散を宣言。ウェラーはその後The Style Councilを経てソロアーティストとして活躍し、「モッドファーザー」の称号を得ることになります。The Jamとしての再結成は一度も行われておらず、その潔さが伝説的な評価をさらに高めています。
おすすめアルバム5選¶
1. All Mod Cons(1978年)¶
The Jamの転換点にして最高傑作の一つ。デビュー作とセカンドアルバムの商業的不振を受け、レコード会社からの解雇も囁かれる中で制作された本作は、ポール・ウェラーのソングライティングが飛躍的に成長したことを証明する作品です。「Down in the Tube Station at Midnight」では地下鉄駅での暴力事件をリアルに描写し、「English Rose」では繊細なアコースティックバラードを披露するなど、表現の幅が格段に広がっています。タイトル曲「All Mod Cons」はThe Kinksへのオマージュであり、60年代ブリティッシュロックへの深い敬愛が全編を通じて感じられます。レコードで聴くと、ヴィック・コッパースミス=ヘヴンのプロデュースによるクリアかつパンチのあるサウンドが際立ち、3人の演奏力の高さを改めて実感できます。
2. Setting Sons(1979年)¶
元々はコンセプトアルバムとして構想された3rdアルバム。幼なじみ3人の人生の分岐を描くという壮大なテーマは完全には実現しなかったものの、「The Eton Rifles」(UKチャート3位)に代表されるように、イギリスの階級社会への鋭い批評が全編に貫かれています。「Private Hell」の内省的な歌詞、「Thick as Thieves」の友情と疎遠をテーマにしたドラマチックな展開など、一曲ごとに物語性のある構成が魅力です。ジャケットにはベンジャミン・クレメンツの彫刻「St. John's Ambulance Bearers」が使用され、戦争と労働者階級というテーマを視覚的にも印象づけています。A面からB面への流れをレコードで体験すると、アルバム全体の構成美が浮かび上がります。
3. Sound Affects(1980年)¶
The BeatlesのRevolver期を彷彿とさせるサイケデリックな実験性と、タイトなモッズサウンドが融合した意欲作。冒頭の「Pretty Green」から階級社会への皮肉が炸裂し、「That's Entertainment」では日常のありふれた風景を詩的に描写する名曲が生まれました。「That's Entertainment」はシングルカットされなかったにもかかわらず、輸入盤シングルがUKチャートで21位を記録するという異例の事態を引き起こしました。「Start!」はThe Beatlesの「Taxman」のベースラインを引用しつつ、まったく新しいエネルギーを注入した1位獲得シングルです。レコードで聴くと、リヴァーブやフェイザーを効果的に使った空間的なサウンドデザインが鮮明に再現され、ヘッドフォンで聴くのとはまた違った立体感を楽しめます。
4. The Gift(1982年)¶
最終作にして唯一のUKアルバムチャート1位獲得作品。ソウル、ファンク、R&Bの要素をこれまで以上に前面に押し出し、後のThe Style Councilへの布石とも言えるサウンドを展開しています。「Town Called Malice」はモータウンビートにサッチャー政権下の労働者階級の困窮を重ねた名曲で、UKチャート1位を獲得しました。「Ghosts」の内省的な美しさ、「Trans-Global Express」のファンキーなグルーヴなど、バンドの音楽的到達点を示す楽曲が並びます。The Jamの最後のスタジオアルバムとして、有終の美を飾った一枚です。レコード盤はPolydorの上質なプレスにより、ホーンセクションやキーボードを含む厚みのあるサウンドが豊かに再生されます。
5. In the City(1977年)¶
パンクムーブメントの真っ只中にリリースされたデビューアルバム。12曲わずか33分という簡潔さの中に、若さと衝動が詰まっています。タイトル曲「In the City」のイントロは、The ClashやSex Pistolsとは一線を画す、モッズ由来のシャープなギターサウンドが印象的です。「Away from the Numbers」ではモッズカルチャーへの共感を歌い、Batman ThemeのカバーではThe Whoを思わせるパワフルな演奏を披露しています。パンクのエネルギーと60年代R&Bへの愛情が混在する本作は、The Jamの原点であり、バンドの出発点を知る上で欠かせない一枚です。初期プレスのオリジナル盤は、荒削りながら勢いのある音像がアナログならではの迫力で迫ってきます。
オリジナル盤の見分け方¶
The JamのレコードはすべてPolydor Records UKからリリースされており、レーベル遍歴が複雑な他のパンクバンドと比べると、オリジナル盤の特定は比較的わかりやすいです。それでもいくつかの重要なチェックポイントがあります。
レーベル面の確認¶
Polydor UKオリジナル盤は、赤地に黄色のPolydorロゴが配されたレーベルデザインが特徴です。1970年代後半のプレスでは、レーベル周縁部に「Made in England」の表記があり、カタログ番号はアルバムの場合「POLD」で始まります(例:In the Cityは「POLD 5008」、All Mod Consは「POLD 5008」ではなく「POLD 5008」系列)。初回プレスかどうかを判別するには、マトリクス番号(用語集参照)が重要です。盤の内周デッドワックス部分に「1」や「A-1」「B-1」などの初期マトリクスが刻印されていれば、ファーストプレスの可能性が高いです。
マトリクス番号とプレス情報¶
The Jamのオリジナル盤では、マトリクスに「△(三角形)」マークが確認できる場合があり、これはPolydorの英国プレス工場を示しています。また、初回プレスにはマスタリングエンジニアの手書き文字が刻印されていることがあり、再発盤の機械的な刻印とは異なる風合いを持ちます。特にAll Mod ConsやSetting Sonsの初回プレスは、後年のプレスと比較して音の鮮度やダイナミクスに明確な違いがあるとされています。
ジャケットとインサートの確認¶
オリジナル盤のジャケットは、紙質が厚くしっかりとした手触りです。再発盤では薄い紙に変更されていることが多く、手に取った際の重量感で判別できます。また、初回プレスには歌詞カードやインナースリーブが付属している場合があり、これらの有無もコレクター価値に影響します。Setting Sonsのオリジナル盤には、ポスター型のインサートが封入されています。
シングル盤について¶
The Jamはシングルバンドとしても非常に重要な存在で、多くのシングルがアルバム未収録のB面曲を含んでいます。7インチシングルのオリジナル盤は、ピクチャースリーブの有無と状態が価値を大きく左右します。特に初期のシングル「In the City」「All Around the World」のPolydorオリジナル盤は、ピクチャースリーブ付きの美品であれば高値で取引されています。
中古レコードの選び方と注意点¶
盤のコンディションを最優先に¶
The Jamのレコードは当時イギリスで非常に人気が高かったため、繰り返し再生された盤が多く出回っています。購入前には必ず盤面のキズや汚れを確認し、可能であれば試聴させてもらいましょう。パンク・ニューウェイブ系のレコードは、ファンが熱心に聴き込んだ結果、盤質がVG以下に落ちているものも少なくありません。音楽をしっかり楽しむためには、VG+以上のコンディションを目安にすることをおすすめします。グレーディングの基準については用語集で詳しく解説しています。
ジャケットの状態にも注目¶
The Jamのジャケットアートはどれも魅力的で、コレクションとしての価値を高めています。リングウェア(レコード盤の跡がジャケットに浮き出る現象)、角の折れ、シミ、色褪せなどがないかをチェックしてください。特にSetting Sonsの彫刻ジャケットやSound Affectsのポップアート風デザインは、良好な状態で保持されている個体を選びたいところです。
再発盤・リマスター盤も視野に入れる¶
The Jamのオリジナル盤は、状態の良いものであれば一定の価格で取引されていますが、他のパンクバンドと比較すると極端な高騰は少なく、比較的手の届きやすい価格帯にあります。とはいえ、初めてのコレクションであれば、リイシュー盤やリマスター盤から始めるのも賢い選択です。近年の180g重量盤リイシューは音質面でも優れており、リスニング目的であれば十分に満足できるクオリティです。
プレス国による違い¶
The Jamはイギリスでは国民的バンドでしたが、アメリカでの知名度は限定的でした。そのため、US盤のプレス枚数はUK盤と比べて少なく、逆にUS盤のオリジナルがレアアイテムとなっているケースもあります。日本盤は帯と解説書が付属し、プレスクオリティも高いことから、リスニング用として人気があります。目的に応じてプレス国を選ぶとよいでしょう。
信頼できる購入先を選ぶ¶
中古レコードは実店舗で手に取って確認するのが最も確実です。専門店のスタッフであれば、プレスの違いやコンディションについて的確なアドバイスをくれます。オンラインで購入する場合は、出品者の評価や盤のグレーディング表記を必ず確認してください。Discogsなどのデータベースで、カタログ番号やマトリクス番号を照合することで、目当てのプレスかどうかを事前に確認できます。
まとめ¶
The Jamは、パンクの爆発力とモッズの美意識を融合させ、わずか5年間の活動期間に珠玉の作品群を残したバンドです。All Mod Cons、Setting Sons、Sound Affectsといったアルバムは、イギリスの労働者階級の日常を鋭くも温かい視線で描き、時代を超えて聴き継がれる名盤として評価されています。
Polydor Records UKからのオリジナル盤は、マトリクス番号やレーベルデザインの確認によって比較的見分けやすく、コレクション入門としても取り組みやすい部類に入ります。盤とジャケットのコンディションを丁寧に見極め、自分に合った一枚を見つけてください。
3ピースバンドならではのタイトで隙のない演奏、ポール・ウェラーの詩情あふれる歌声とギター、ブルース・フォクストンの力強いベースライン、リック・バックラーの正確無比なドラミング。レコードに針を落とせば、1970年代末から80年代初頭のイギリスの空気とともに、The Jamの音楽があなたの部屋を満たしてくれるはずです。
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