The Pretenders(プリテンダーズ)のレコードガイド|おすすめ盤と選び方¶
1970年代末のイギリスで産声を上げたThe Pretenders(プリテンダーズ)は、パンクの攻撃性、ポップの甘美なメロディ、そしてロックンロールの骨太さを一身に体現した希有なバンドです。フロントウーマンのChrissie Hynde(クリッシー・ハインド)が放つ鋭くもセクシーなボーカルと、ギタリストJames Honeyman-Scott(ジェイムズ・ハニーマン=スコット)の巧みなリフワークが織りなすサウンドは、40年以上経った今もまったく色褪せません。本記事では、レコードコレクターの視点からThe Pretendersの魅力とおすすめアルバム、オリジナル盤の見分け方、中古盤購入時の注意点までを丁寧にご紹介します。
The Pretendersとは?バンドの概要¶
The Pretendersは1978年にロンドンで結成されました。中心人物のChrissie Hyndeはアメリカ・オハイオ州アクロン出身で、音楽ジャーナリストとしてロンドンに渡った後、パンク・ムーブメントの只中でバンド結成を決意します。ギターのJames Honeyman-Scott、ベースのPete Farndon(ピート・ファーンドン)、ドラムのMartin Chambers(マーティン・チェンバース)というイギリス人メンバーと合流し、アメリカとイギリスの音楽的感性が融合した唯一無二のバンドが誕生しました。
1979年にシングル「Stop Your Sobbing」でデビュー。この楽曲はThe Kinksのカバーで、プロデュースをNick Lowe(ニック・ロウ)が担当しました。パンクの荒々しさを保ちながらも、60年代ブリティッシュ・ビートへの深い敬意が感じられるアレンジが高い評価を受けます。続くシングル「Kid」「Brass in Pocket」も次々とヒットし、特に「Brass in Pocket」は全英1位を獲得。1980年にリリースされたセルフタイトルのデビューアルバム『Pretenders』は、批評家・リスナー双方から絶賛され、バンドは一気にスターダムに駆け上がりました。
しかし、成功の裏で悲劇も起こります。1982年にJames Honeyman-Scottが、1983年にはPete Farndonが、それぞれ薬物に関連する原因で他界。バンドは壊滅的な打撃を受けますが、Chrissie Hyndeは新たなメンバーを迎え入れ、バンドを再建します。1984年の『Learning to Crawl』では深い喪失感と再生への意志が音楽に刻まれ、バンドの新たなスタートを世に示しました。
その後もメンバー交代を繰り返しながらChrissie Hyndeを中心に活動を継続し、2005年にはロックの殿堂入りを果たしています。パンク、ニューウェイヴ、クラシックロックの境界を軽やかに越えるそのサウンドは、多くの後続アーティストに影響を与え続けています。
おすすめアルバム5選¶
1. 『Pretenders』(1980年)¶
記念すべきデビューアルバムにして、バンドの最高傑作と評される一枚です。「Brass in Pocket」「Kid」「Stop Your Sobbing」「Mystery Achievement」「Tattooed Love Boys」といった楽曲がずらりと並び、捨て曲が一切ありません。Chris Thomas(クリス・トーマス)のプロデュースのもと、パンクのエネルギーと洗練されたポップ・センスが絶妙なバランスで共存しています。James Honeyman-Scottのギターワークは、クリーントーンからディストーションまで多彩な表情を見せ、アルバム全体を通して驚くほど完成度が高いです。レコードコレクターとしてまず手に入れるべき必携盤です。
2. 『Pretenders II』(1981年)¶
前作の成功を受けて制作された2ndアルバム。ツアーの合間にレコーディングが行われたため、よりライブ感のあるラフなサウンドが特徴です。「Talk of the Town」「Message of Love」「I Go to Sleep」(こちらもKinksのカバー)などのシングル曲に加え、「The Adultress」「Day After Day」といったアルバム曲にも聴きどころが多いです。デビュー作に比べるとやや散漫な印象を持つ声もありますが、バンドのライブ感あふれるダイナミズムが詰まっており、レコードで聴くとその荒削りな魅力がいっそう際立ちます。
3. 『Learning to Crawl』(1984年)¶
メンバー2人の死という悲劇を乗り越えて制作された3rdアルバム。新ギタリストにRobbie McIntosh(ロビー・マッキントッシュ)、新ベーシストにMalcolm Foster(マルコム・フォスター)を迎え、バンドは新たな出発を遂げます。冒頭の「Middle of the Road」はアメリカの風景を描いた爽快なロックナンバーで、「Back on the Chain Gang」は亡きJames Honeyman-Scottへの追悼が込められた感動的な名曲です。「My City Was Gone」「2000 Miles」「Show Me」なども収録されており、喪失と再生のドラマが一枚を通じて見事に表現されています。
4. 『Get Close』(1986年)¶
4thアルバムはBob Clearmountain(ボブ・クリアマウンテン)やJimmy Iovine(ジミー・アイオヴィン)など複数のプロデューサーを起用し、より洗練された80年代的なプロダクションに仕上がっています。最大のヒットシングル「Don't Get Me Wrong」は、軽快なギターリフと弾けるようなメロディが印象的なポップナンバーで、バンドの明るい一面を存分に発揮しています。「Hymn to Her」の壮大なバラードも聴きごたえ十分。80年代のサウンドプロダクションをアナログで体感するにはうってつけの一枚です。
5. 『Packed!』(1990年)¶
5thアルバムはMitchell Froom(ミッチェル・フルーム)のプロデュースにより、オーガニックで落ち着いたサウンドが広がります。「Never Do That」「Let's Make a Pact」などのロックナンバーに加え、「Sense of Purpose」「Hold a Candle to This」といった味わい深い楽曲が揃っています。派手さはないものの、Chrissie Hyndeのソングライティングの成熟が感じられる佳作です。中古市場では比較的安価に手に入りやすく、コレクションに奥行きを加える一枚としておすすめです。
オリジナル盤の見分け方¶
The Pretendersのレコードは、主にSire Records(サイアー・レコーズ)からリリースされています。イギリスではReal Records(リアル・レコーズ)からの発売で、それぞれオリジナル盤の特徴が異なります。
まず、UK盤のオリジナルを見分けるポイントです。デビューアルバム『Pretenders』のUK初版はReal Records(カタログ番号:RAL 3)からリリースされています。レーベル面はReal Recordsの赤いデザインで、マトリクスナンバーには手書きの刻印が確認できます。初回プレスにはインナースリーブに歌詞が印刷されたものが付属しており、これが有無の判断材料になります。
US盤の場合は、Sire Records(カタログ番号:SRK 6083)からのリリースです。レーベル面はSireの黄色い城のロゴが目印となります。初期プレスではWarner Bros.の配給表記がレーベルに記載されており、後期プレスと区別するポイントになります。US盤は流通量が多いため比較的入手しやすいですが、状態の良い初版は年々見つけにくくなっています。
『Learning to Crawl』以降のアルバムについても、初回プレスにはレーベル面のデザインやマトリクスナンバーの末尾に特徴があります。特にマトリクスナンバーの刻印が機械打ちか手書きかは、プレス時期を判断する重要な手がかりです。用語集でマトリクスナンバーの読み方について詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
日本盤にも注目しましょう。日本盤はWarner-Pioneer(ワーナー・パイオニア)から発売されており、帯付きのものはコレクター人気が高いです。特にデビューアルバムと『Learning to Crawl』の帯付き美品は、海外のコレクターからも需要があり、良好なコンディションのものには相応の価格がつきます。
中古レコードの選び方と注意点¶
The Pretendersのレコードは中古市場での流通量が比較的多く、入門しやすいアーティストです。しかし、状態の良い盤を手に入れるためにはいくつかのポイントを押さえておく必要があります。
盤面の状態を最優先に確認しましょう。 デビューアルバムや『Pretenders II』は、リリース当時に大量に出回ったため中古盤の数も豊富ですが、繰り返し再生されたものが多く、表面のスレや浅い傷がある個体も少なくありません。特にA面1曲目(「Tattooed Love Boys」や「The Adultress」)の冒頭部分は針を落とす回数が多いため、ノイズが乗りやすいです。可能であれば試聴して、スタイラスが拾うノイズの程度を確認してください。
ジャケットのコンディションにも気を配りましょう。 『Pretenders』のジャケットはマットな質感の紙が使われており、指紋や汚れが目立ちやすい特徴があります。また、角の擦れやリングウェアの有無もチェックポイントです。『Learning to Crawl』はゲートフォールド仕様ではありませんが、見開きのインナースリーブに写真が掲載されているプレスもあるため、付属品の有無を確認しておくとよいでしょう。
オリジナル盤と再発盤の価格差を把握しておきましょう。 デビューアルバムのUK初版(Real Records盤)は状態が良ければ高値がつくことがありますが、US盤やヨーロッパ盤であれば手頃な価格でオリジナル・プレスが見つかります。近年は180g重量盤でのリイシューも出ており、音質を重視する方にはそちらも選択肢となります。ただし、初期プレスならではの鮮度感や空気感は、やはりオリジナル盤でしか味わえないものがあります。
オンラインでの購入時は、出品者の実績と商品説明の詳細さを確認してください。 VG+やNMといったグレーディング表記が正確かどうかは、出品者によって差があります。写真で盤面の状態を確認できる出品を選び、不明点があれば購入前に質問することをお勧めします。
まとめ¶
The Pretendersは、Chrissie Hyndeの揺るぎないビジョンのもと、パンクの反骨精神とポップの普遍的な美しさを融合させた唯一無二のバンドです。デビューアルバム『Pretenders』の衝撃、悲劇を乗り越えた『Learning to Crawl』の感動、「Don't Get Me Wrong」に代表されるポップの輝き。そのどれもが、アナログレコードで聴くことでいっそう深い味わいを見せてくれます。
UK盤のReal RecordsプレスやUS盤のSire Recordsプレスなど、オリジナル盤の見分け方を押さえておけば、中古レコードショップやオンラインマーケットでの掘り出し物探しがさらに楽しくなるはずです。流通量が多いアーティストだからこそ、じっくり状態を吟味して、最良の一枚を手にしてください。
ターンテーブルに針を落とした瞬間、Chrissie Hyndeの力強くも繊細な歌声とJames Honeyman-Scottの鮮烈なギターが部屋いっぱいに広がります。ぜひあなたのコレクションに、The Pretendersの名盤を加えてみてください。
Harmonic Society Records — アナログレコードの知識ベース。ホームに戻る
Digital & Analog in Harmony.
テクノロジーとカルチャーの交差点から、共鳴を生み出す。Harmonic Society は、アナログの温もりとデジタルの可能性を掛け合わせ、音楽と文化の新しい体験を届けています。姉妹サイト Harmonic Society Philosophy では古代から現代までの哲学を、Post Web3 ではWeb3・ブロックチェーンの専門分析を発信しています。