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レコードはなぜ音が違う?デジタルとアナログの音質差を徹底解説

レコードの音がデジタル音源と違って聞こえるのには、明確な技術的理由があります。「温かみがある」「空気感が違う」と感じるその音の差は、録音方式の違い、再生機器の特性、そしてアナログ特有の物理的な仕組みから生まれています。本記事では、レコードの音がなぜ違うのかを、仕組みのレベルから詳しく解説します。

レコードの音が出る仕組み

まず、レコードがどのように音を記録・再生しているかを理解しましょう。

溝に刻まれた振動

レコードの表面には、らせん状の溝(グルーヴ)が刻まれています。この溝の壁面に、音楽信号が物理的な凹凸として記録されています。スタイラス(針)がこの凹凸をなぞると振動が発生し、カートリッジ内部の発電機構が振動を電気信号に変換します。

つまり、レコードは音を連続的なアナログ波形としてそのまま物理的に記録しているのです。

デジタル音源との根本的な違い

デジタル音源(CD、ストリーミング)は音を数値データとして記録します。連続的な音の波形を一定間隔で「サンプリング」し、数字の列に変換します。

項目 アナログ(レコード) デジタル(CD / ストリーミング)
記録方式 溝の物理的な凹凸 数値データ(0と1)
波形 連続(途切れがない) 離散的(サンプリング)
周波数帯域 理論上は制限なし サンプリング周波数の半分まで
ダイナミックレンジ 約60〜70dB CD: 96dB / ハイレゾ: 144dB
劣化 再生のたびに微細に摩耗 劣化しない

レコードの音が「温かい」と感じる理由

アナログ特有の倍音と歪み

レコードの再生過程では、カートリッジやフォノイコライザーなどの機器がわずかな歪みを加えます。この歪みは偶数次倍音を多く含むため、人間の耳には「心地よい厚み」として感じられます。

デジタル機器の歪みは奇数次倍音が多く、耳障りに聞こえやすいのとは対照的です。このアナログ特有の倍音構成が、「温かい音」という印象の大きな要因です。

RIAA補正による音質への影響

レコードの製造過程では、RIAAカーブと呼ばれる特殊な周波数補正が行われています。

  • カッティング時: 低音を小さく、高音を大きく記録(溝幅の制約のため)
  • 再生時: フォノイコライザーで逆補正をかけ、元の周波数バランスに戻す

このアナログ的な補正プロセスが、デジタル音源とは異なる周波数特性を生み出します。フォノイコライザーの設計や品質によっても音が変わるため、同じレコードでも機器によって印象が変わるのはこのためです。

高周波の自然な減衰

レコードは物理的な制約から、20kHz以上の超高音域が自然に減衰します。一方、CDは約22kHzで急峻に遮断されます。

この違いが聴感に与える影響は議論がありますが、レコードのなだらかなロールオフ(高音の減衰)は、耳に自然に聞こえるという意見が多くあります。

同じレコードでも音が違う理由

レコード愛好家の間で「プレスによって音が違う」とよく言われますが、これにもきちんとした理由があります。

マスタリングの違い

同じアルバムでも、国やプレス時期によってマスタリング(最終的な音作り)が異なることがあります。

  • オリジナル盤: マスターテープから直接カッティングされるため、最もテープに近い音
  • リイシュー盤: リマスタリングが施されている場合、音の印象が大きく変わることも
  • 国別の違い: UK盤、US盤、日本盤でそれぞれ異なるカッティングエンジニアが担当

例えば、The Beatlesの『Abbey Road』はUK Parlophone盤とUS Capitol盤で異なるマスタリングが施されており、音の印象はかなり異なります。

プレス品質の差

レコードの製造工程でも音質に差が出ます。

  • スタンパーの世代: マザー盤から何回目に作られたスタンパーかで、溝の精度が変わる
  • 塩化ビニールの配合: 使用する素材の品質や配合で、サーフェスノイズの量が変わる
  • プレス圧と温度: 工場ごとの製造条件の違いが音質に影響

カッティングレベルの違い

溝を深く刻む(カッティングレベルが高い)ほど、ダイナミックレンジが広くなり音に力強さが出ますが、溝幅が広くなるため収録時間は短くなります。エンジニアはこのバランスを判断しながらカッティングしており、この判断が音質に直結します。

再生環境で音が変わる仕組み

レコードの音は、再生に使う機器によっても大きく変わります。

カートリッジの影響

カートリッジの種類(MM型 / MC型)や針先形状(丸針 / 楕円針 / ラインコンタクト)によって、溝から読み取れる情報量が変わります。

  • MM型: 力強くダイナミックな音の傾向
  • MC型: 繊細で解像度の高い音の傾向
  • 楕円針: 丸針より多くの情報を読み取れるため、高音域の再現性が向上

ターンテーブルの影響

ターンテーブルの回転精度、プラッターの質量、防振性能も音に影響します。回転ムラ(ワウ・フラッター)が大きいと、音程が揺れて不安定に聞こえます。

フォノイコライザーの影響

RIAA補正を行うフォノイコライザーの設計思想や部品品質は、音質への影響が非常に大きい要素です。同じカートリッジでもフォノイコライザーを変えると、まったく別物のような音になることがあります。

「レコードの方が音が良い」は本当か?

「レコードの方が音が良い」という主張と「デジタルの方が優れている」という主張は、レコード愛好家の間で長年議論されてきました。

スペック上の比較

純粋なスペック(ダイナミックレンジ、S/N比、周波数特性)ではデジタルが優位です。CDは96dBのダイナミックレンジを持ち、レコードの60〜70dBを大きく上回ります。

しかし、スペックだけでは語れない

音楽体験は数値だけでは測れません。レコードが支持される理由は、以下のような要素が絡み合っています。

  • アナログ特有の倍音構成: デジタルにはない心地よい厚みと温かさ
  • 再生機器との相互作用: カートリッジやアンプの個性が音楽に色を添える
  • 能動的な鑑賞体験: レコードに針を落とす行為が、音楽への集中力を高める
  • 所有の実感: ジャケットを手に取り、盤面を眺め、針を落とす一連の体験

音の「良さ」は主観的なものです。レコードとデジタル、どちらが良いかではなく、それぞれの特性を理解したうえで、好みの聴き方を見つけることが大切です。

レコードの音を最大限に引き出すには

せっかくレコードで聴くなら、その音を最大限に楽しみたいもの。以下のポイントを意識してみてください。

  • レコードのクリーニング: 溝に汚れがあると本来の音が出ません。正しいお手入れを習慣にしましょう
  • 針圧の適正化: カートリッジ推奨の針圧に正確に設定する
  • フォノイコライザーの見直し: 予算に余裕があれば、外付けのフォノイコライザーを検討する
  • スピーカーの配置: 左右のスピーカーを耳の高さに合わせ、正三角形の頂点で聴く

まとめ

  • レコードの音がデジタルと違うのは、アナログ特有の連続波形と倍音構成によるもので、技術的に明確な理由があります
  • RIAA補正やカートリッジの特性が、レコード独自の音の「温かさ」を生み出しています
  • 同じアルバムでもプレスや国によって音が異なるのは、マスタリングやカッティングの違いが原因です
  • 再生機器(カートリッジ・フォノイコライザー)の選択が音質に大きく影響するため、機器選びも楽しみの一つです
  • 音の良し悪しは主観的 — レコードの魅力はスペックでは測れない、五感で楽しむ音楽体験にあります

用語集では、本記事で登場した専門用語の詳しい解説もご覧いただけます。


Digital & Analog in Harmony.

テクノロジーとカルチャーの交差点から、共鳴を生み出す。Harmonic Society は、アナログの温もりとデジタルの可能性を掛け合わせ、音楽と文化の新しい体験を届けています。姉妹サイト Harmonic Society Philosophy では古代から現代までの哲学を、Post Web3 ではWeb3・ブロックチェーンの専門分析を発信しています。