シューゲイザーとは?歴史・特徴・代表バンドとおすすめレコードを解説¶
シューゲイザー(shoegaze)とは、1980年代末〜1990年代初頭のイギリスで生まれたロックのサブジャンルです。分厚いギターノイズの壁の中にメロディとヴォーカルが溶け込む幻想的なサウンドが特徴で、レコードで聴くことでその音の洪水を最も深く体感できます。
シューゲイザーの定義と音楽的特徴¶
「シューゲイザー」という名前の由来¶
「シューゲイザー」(shoegaze / shoegazer)とは、直訳すると「靴を見つめる人」。ライブ中にギターのエフェクトペダルを操作するために足元を見つめ続けるバンドの姿勢を、イギリスの音楽メディアが揶揄的に名づけたものです。当時は必ずしも好意的な呼び名ではありませんでしたが、今ではジャンルを象徴する名前として定着しています。
シューゲイザーの音楽的特徴¶
シューゲイザーの音楽は、以下の要素によって特徴づけられます。
- 「音の壁」(Wall of Sound): 多数のギターを重ね、リバーブやディレイ、ディストーションなどのエフェクトを大量に使用して作り出される、分厚いノイズの層
- メロディとノイズの融合: ポップで美しいメロディがノイズの中に埋もれるようにミックスされ、輪郭がぼやけた夢幻的な質感を生む
- ウィスパーヴォーカル: 歌詞が聞き取れないほど控えめに歌われるヴォーカルスタイル。声も「もう一つの楽器」として扱われる
- エフェクトペダルの多用: リバーブ、ディレイ、コーラス、フランジャー、ディストーションなどを複雑に組み合わせたギターサウンド
- トレモロアームの活用: ギターのトレモロアーム(ワーミーバー)を揺らしながらコードを弾く奏法が多用される
- 浮遊感のあるリズム: ドラムやベースは楽曲を前に推進するというよりも、音の層の中で浮遊する感覚を作り出す
シューゲイザーのルーツ¶
シューゲイザーは複数のジャンルから影響を受けて成立しました。
| 影響元 | シューゲイザーへの影響 |
|---|---|
| ドリームポップ(Cocteau Twins等) | 幻想的なヴォーカル、リバーブの多用 |
| ノイズポップ(Jesus and Mary Chain等) | フィードバックノイズとポップメロディの共存 |
| ポストパンク(Joy Division等) | ダークな雰囲気、エフェクティヴなギター |
| サイケデリックロック | 浮遊感、音響的な実験 |
| アンビエント | 音のテクスチャーへの意識 |
シューゲイザーの歴史¶
誕生と黄金期(1988〜1992年)¶
シューゲイザーの始まりは、My Bloody Valentineが1988年にリリースした『Isn't Anything』に遡ります。ケヴィン・シールズが生み出した独自のギターサウンドは、後続のバンドに計り知れない影響を与えました。
1991年の『Loveless』の登場により、シューゲイザーは頂点に達します。同時期にイギリスでは多数のシューゲイザーバンドが登場し、シーンとして盛り上がりました。
代表的なバンドとアルバム¶
| バンド | 代表作 | 特徴 |
|---|---|---|
| My Bloody Valentine | 『Loveless』(1991年) | シューゲイザーの最高峰、多層的なギターノイズの極致 |
| Slowdive | 『Souvlaki』(1993年) | 夢幻的で美しいメロディ、アンビエント寄り |
| Ride | 『Nowhere』(1990年) | 疾走感のあるギターロックとノイズの融合 |
| Lush | 『Spooky』(1992年) | 4ADレーベルらしい耽美なサウンド |
| Chapterhouse | 『Whirlpool』(1991年) | ダンスビートとシューゲイザーの融合 |
| Pale Saints | 『The Comforts of Madness』(1990年) | 繊細で内省的なサウンド |
| Swervedriver | 『Raise』(1991年) | よりロック寄りのヘヴィなサウンド |
衰退(1992〜1993年)¶
1992年頃からブリットポップ(Oasis、Blur等)が台頭すると、シューゲイザーは急速に勢いを失いました。「靴を見つめている」内向的な態度は、ブリットポップの外向的で挑発的なスタイルとは対照的であり、メディアの関心はブリットポップへ移りました。My Bloody Valentineの活動休止、Slowdiveの解散なども重なり、シーンは事実上消滅しました。
再評価とニューゲイズ(2000年代〜現在)¶
2000年代に入ると、シューゲイザーの再評価が始まります。Deerhunter、M83、A Place to Bury Strangersといった「ニューゲイズ」と呼ばれる新世代のバンドが登場し、シューゲイザーのサウンドを現代に蘇らせました。
さらに、オリジナル世代のバンドも次々と復活します。
- My Bloody Valentine: 2013年に22年ぶりの新作『m b v』をリリース
- Slowdive: 2017年に22年ぶりの新作『Slowdive』、2024年に『Everything Is Alive』をリリース
- Ride: 2017年に21年ぶりの新作『Weather Diaries』をリリース
日本でもシューゲイザーの影響を受けたバンドは多く、きのこ帝国、cruyff in the bedroom、Luminous Orangeなどが活躍しています。
シューゲイザーのレコード おすすめ入門盤5選¶
シューゲイザーをレコードで体験したい方のために、入門に最適な5枚を紹介します。
1. My Bloody Valentine『Loveless』(1991年)¶
シューゲイザーの金字塔にして究極の1枚。レコードで聴くことが必須と言い切れる作品です。多層的なギターノイズの凄まじさと、その中に浮かぶメロディの美しさは、アナログの連続した波形でこそ真価を発揮します。詳しくはMy Bloody Valentineのアーティスト紹介もご覧ください。
2. Slowdive『Souvlaki』(1993年)¶
シューゲイザーの中でも最も美しいアルバムの一つ。ブライアン・イーノがプロデュースに参加した「Sing」を筆頭に、夢の中を漂うような楽曲が並びます。レコードの温かい音で聴くと、その浮遊感がさらに増幅されます。
3. Ride『Nowhere』(1990年)¶
シューゲイザーの疾走感を最も体現したアルバム。「Vapour Trail」の美しいギターアルペジオ、「Dreams Burn Down」の轟音ギターなど、ダイナミクスの幅が広い作品です。レコードのA面・B面の構成が秀逸で、通して聴く価値があります。
4. The Jesus and Mary Chain『Psychocandy』(1985年)¶
シューゲイザーの直接的な先駆者。フィードバックノイズの嵐の中にポップなメロディが聴こえるという革命的なアルバムです。シューゲイザーの源流を知るための必聴盤。
5. Cocteau Twins『Heaven or Las Vegas』(1990年)¶
ドリームポップの女王、コクトー・ツインズの最高傑作。エリザベス・フレイザーの天使的なヴォーカルと、ロビン・ガスリーのリバーブに満ちたギターサウンドは、シューゲイザーのもう一つのルーツです。
シューゲイザーのレコードを買うときの注意点¶
- オリジナル盤は高騰中: 特に『Loveless』のCreationオリジナル盤は数万円以上。『Souvlaki』『Nowhere』のオリジナルも年々値上がりしています
- 再発盤が充実: 近年、主要タイトルの再発盤が多数リリースされています。180g重量盤やリマスター盤は音質も優秀で、入門用に最適です
- 4ADレーベルの作品に注目: Cocteau Twins、Lush、Pale Saintsなどはイギリスのインディーレーベル4ADからリリースされています。4ADの独特のアートワークも含めてコレクションする楽しみがあります
- グレーディングを確認する: 1980〜90年代のインディーレコードは保管状態にバラつきがあるため、盤の状態をしっかり確認しましょう
レコードの購入場所については、レコードの購入場所ガイドも参考にしてみてください。
シューゲイザーをレコードで聴く魅力¶
シューゲイザーは、レコードとの相性が最も良いジャンルの一つです。
- ノイズの質感がまるで違う: シューゲイザーの命である分厚いギターノイズは、デジタル再生では硬く刺々しく感じることがあります。レコードのアナログ再生では、ノイズが温かく包み込むような質感になり、長時間聴いても心地よく感じられます
- 音の溶け合い: シューゲイザーのミックスは、ギター・ヴォーカル・ドラムスが渾然一体となって「音の壁」を作ることを意図しています。レコードのアナログ再生は各楽器の境界を自然に溶かし、この意図を最も忠実に再現します
- 大音量で聴く醍醐味: シューゲイザーは大きな音で聴いてこそ真価を発揮するジャンルです。レコードを大音量で再生すると、音の振動が部屋全体を満たし、まるでライブ会場にいるような没入感を得られます
- 静寂と轟音のコントラスト: レコードの針がリードイングルーヴに乗った瞬間の微かなノイズから、突如始まる轟音ギターへの変化は、デジタルの完全な無音からの再生では得られないドラマティックな体験です
まとめ¶
- シューゲイザーは1980年代末〜90年代初頭のイギリスで生まれた、分厚いギターノイズとメロディが溶け合う幻想的なジャンル
- My Bloody Valentine、Slowdive、Rideが三大バンド。最初の1枚には『Loveless』が必須
- ブリットポップの台頭で一度は衰退したが、2000年代以降「ニューゲイズ」として復活し、オリジナル世代のバンドも再結成
- オリジナル盤は高騰しているが、再発盤が充実しており入手しやすい
- ノイズの質感や音の溶け合いは、レコードのアナログ再生でこそ真の美しさを体験できる
Digital & Analog in Harmony.
テクノロジーとカルチャーの交差点から、共鳴を生み出す。Harmonic Society は、アナログの温もりとデジタルの可能性を掛け合わせ、音楽と文化の新しい体験を届けています。姉妹サイト Harmonic Society Philosophy では古代から現代までの哲学を、Post Web3 ではWeb3・ブロックチェーンの専門分析を発信しています。