レコードの傷と音への影響 — 傷の種類別に症状・対処法を解説¶
レコードの傷が音へ与える影響は、傷の種類と深さによって大きく異なります。軽いスレなら再生にほとんど支障はありませんが、深い溝傷は針飛びや音飛びの原因になります。本記事では、傷の種類ごとに音への影響を整理し、グレーディングとの関係、修復の可否、予防策まで解説します。
レコードの溝と傷の関係 — なぜ傷が音に影響するのか¶
レコードの音は、盤面に刻まれた幅0.04mm〜0.07mmほどの微細な溝(グルーヴ)をスタイラス(針)がなぞることで再生されます。溝の壁面には音楽信号が物理的な凹凸として記録されており、針がその凹凸をトレースすることで振動を生み出します。
傷がつくと、この精密な凹凸パターンが壊れ、針が本来と異なる振動を拾ってしまい、ノイズや音飛びとして現れます。傷の深さや方向で音への影響が大きく変わるのは、この溝の構造を理解すると納得がいくでしょう。
傷の種類と音への影響の違い¶
レコードの傷にはいくつかのタイプがあり、それぞれ音への影響が異なります。代表的な種類を見ていきましょう。
ヘアラインスクラッチ(細い線状のスレ)¶
盤面に見える非常に細い線状の傷で、日常の取り扱いで自然に生じます。光にかざすとうっすら見えますが、触ってもほとんどわかりません。
音への影響: ほぼなし。静かなパッセージで極めて小さなサーフェスノイズが聞こえることがありますが、音楽を楽しむうえで問題にはなりません。
スカッフマーク(こすれ傷・面状のスレ)¶
盤面が何かに擦れてできる、やや広い範囲のスレ傷です。盤をスリーブから雑に出し入れしたり、盤面同士を重ねたりすると発生します。光に当てると曇ったような反射が見られます。
音への影響: 軽度なら再生音にほぼ影響しません。しかし範囲が広く深さがある場合は、「サー」「シャー」という持続的なサーフェスノイズが加わります。
溝に沿った傷(ラテラルスクラッチ)¶
溝の方向(円周方向)に沿ってついた傷です。カーボンブラシを強く押しつけた場合などに発生します。
音への影響: 溝と同じ方向の傷は針のトレースを大きく妨げないことが多く、音への影響は比較的小さい傾向があります。ただし深い場合は該当箇所で繰り返しノイズが出ます。
溝を横切る傷(ラジアルスクラッチ・放射状の傷)¶
盤の中心から外周に向かって放射状に走る傷で、最も厄介なタイプです。盤面に硬いものが当たったり、落下時に発生します。
音への影響: 溝を横切るため、針が傷を越えるたびに「プチッ」「パチッ」というクリックノイズが発生します。1回転ごとに同じ箇所を通過するため、一定リズムの繰り返しノイズが特徴です。深い場合は針飛びを起こし、同じ溝を繰り返し再生することもあります。
深い溝傷(ディープグルーヴスクラッチ)¶
爪や硬い異物などで盤面に深く刻まれた傷です。指先でなぞると明確に段差を感じることができます。
音への影響: 大きなポップノイズ(「バチッ」という音)が発生し、針飛びや同じ溝の繰り返し再生を引き起こすこともあります。再生を根本的に妨げるため、最も深刻なダメージです。
傷の種類別 — 音への影響の比較表¶
| 傷の種類 | 見た目 | 音への影響 | 主な症状 | 深刻度 |
|---|---|---|---|---|
| ヘアラインスクラッチ | 光にかざすとうっすら見える細い線 | ほぼなし | ごくわずかなサーフェスノイズ | 低 |
| スカッフマーク | 曇ったような面状のスレ | 軽微〜中程度 | 「サー」という持続ノイズ | 低〜中 |
| ラテラルスクラッチ(溝方向) | 溝に沿った線状の傷 | 小〜中程度 | 該当箇所での軽いノイズ | 中 |
| ラジアルスクラッチ(放射状) | 中心から外周への線状の傷 | 中〜大 | 繰り返しのクリック・ポップ音 | 中〜高 |
| ディープグルーヴスクラッチ | 触ってわかる深い傷 | 大 | 針飛び・音飛び・繰り返し再生 | 高 |
レコードの傷とグレーディングの関係¶
中古レコードを購入する際、傷の状態はグレーディングに直結します。傷と各グレードの関係を理解しておくと、中古盤選びの精度が格段に上がります。
| グレード | 傷の状態 | 再生への影響 |
|---|---|---|
| M(Mint) | 傷なし(未開封品) | 影響なし |
| NM(Near Mint) | ほぼ傷なし。ごく軽微なヘアラインのみ | 影響なし |
| VG+(Very Good Plus) | 軽いヘアラインスクラッチあり | ほぼ聞き取れないレベル |
| VG(Very Good) | 明確なスクラッチ・スカッフあり | サーフェスノイズが聞こえる |
| G+(Good Plus) | 多数の傷あり | 再生に影響するノイズあり |
| G(Good) | 深い傷あり | 針飛び・音飛びの可能性 |
音質重視ならVG+以上を選ぶのが安心です。VGでも音楽は楽しめますが、静かな箇所ではノイズが気になることがあります。
レコードの傷は修復できるのか¶
結論から言うと、レコードの傷を完全に修復することはできません。溝の形状を元通りにする方法は現時点では存在しません。ただし傷の影響を軽減する方法はあります。
クリーニングによる改善¶
傷だと思っていたものが実は溝に詰まった汚れだった、というケースは意外と多くあります。正しいクリーニングを行うことでノイズが大幅に軽減されることがあります。特にバキューム式や超音波クリーニングは効果的です。
針圧の調整¶
スタイラスの針圧をメーカー推奨範囲内で微調整することで、軽い傷による針飛びが解消される場合があります。ただし上げすぎは逆効果のため、必ず推奨範囲内で行いましょう。
木工用ボンドパック¶
木工用ボンドを盤面に薄く塗り、乾燥後に剥がすことで溝に入り込んだ付着物を除去する方法です。傷自体は消えませんが、傷に詰まった汚れを取り除くことでノイズが軽減される可能性があります。
いずれの方法も傷そのものは消せません。大切なレコードほど、傷をつけない予防が何より重要です。
レコードに傷をつけないための予防策¶
傷は修復が難しいからこそ、日常の取り扱いで予防することが最善策です。以下の習慣で大切なコレクションを守りましょう。
正しい持ち方を徹底する¶
レコードはレーベル面と端(エッジ)だけを持ち、溝面には触れないようにしましょう。指紋の油脂が付着するだけでなく、爪で傷をつける危険もあります。
スリーブへの出し入れを丁寧に¶
雑な出し入れはスカッフマークの原因です。スリーブの口を大きく開いてから、盤をゆっくり引き出しましょう。ポリエチレン製インナースリーブに交換すると摩擦が減り傷つきにくくなります。
再生環境を整える¶
ターンテーブル周りにスペースを確保し、レコードを安全に扱える環境を整えましょう。針圧やアンチスケーティングの調整が不適切だと、針が溝に過大な力をかけ、長期的に摩耗を早めます。
保管環境を見直す¶
レコード同士を重ねると盤面が圧迫されスレ傷の原因になります。必ず縦置きで保管しましょう。詳しい保管方法はお手入れガイドでも紹介しています。
アナログならではの傷との付き合い方¶
レコード文化には「多少の傷も味わいのうち」という考え方もあります。アナログレコードならではの温かみを愛する方にとって、軽いサーフェスノイズはむしろレコードらしさの一部でしょう。
傷を過度に恐れて聴かなくなっては本末転倒です。正しい取り扱いと適切なケアを心がけつつ、音楽を楽しむことが一番大切です。
まとめ¶
- レコードの傷が音に与える影響は、傷の種類と深さによって大きく異なります。ヘアラインスクラッチなら音への影響はほぼありませんが、放射状の深い傷は針飛びの原因になります
- 溝を横切る方向(放射状)の傷が最も深刻です。溝に沿った方向の傷に比べ、クリックノイズや針飛びが発生しやすくなります
- 傷を完全に修復する方法は現時点ではありません。クリーニングや針圧調整で症状を軽減できる場合はありますが、予防が最善策です
- 中古レコード選びではVG+以上のグレードを目安にすると、傷による音質への影響を最小限に抑えられます
- 正しい持ち方・スリーブの選択・保管環境の整備を日頃から意識することで、大切なレコードを傷から守ることができます
用語集では、本記事で登場した専門用語の詳しい解説もご覧いただけます。
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