コンテンツにスキップ

David Bowie『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』レビュー

リード文

1972年にリリースされたデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト・アンド・ザ・スパイダーズ・フロム・マーズ』は、ロック音楽の歴史において最も革新的で影響力のあるアルバムのひとつです。架空のロック・バンドというコンセプトを軸に展開されるこのアルバムは、サウンドとビジュアルの完全なシンセシスを実現し、多くのアーティストに多大な影響を与えました。特にミック・ロンソンのギタープレイは、このアルバムの中核を担う存在であり、彼の創意工夫と音楽性がボウイのビジョンを見事に具現化しています。本記事では、このマスターピースの全貌を解き明かし、なぜこのアルバムが今なお多くのレコード・コレクターから愛され続けているのかを探ります。

アルバム概要

『ジギー・スターダスト』は、架空のロック・バンド「ジギー・スターダスト・アンド・ザ・スパイダーズ・フロム・マーズ」というコンセプトのもと制作されました。このコンセプトは単なる歌詞の中での物語にとどまらず、ボウイ自身がこのキャラクターになりきり、ステージでもジギーを演じるという、後のアーティストたちが続く「アルバム・アート・コンセプト」の先駆けとなりました。

プロデューサーのトレヴォー・ホーンことリック・ウェイクマンが関わらず、ボウイとロンソンが中心となって作り上げたこのアルバムは、グラムロックの要素を取り入れながらも、本格的なロック・オペラの構造を持っています。アメリカの宇宙人が地球へ送った最後のメッセージという設定で、人類への警告とロックンロールの本質を同時に伝える、という野心的なテーマが貫かれています。

RCA UK盤は、この作品の最初の形態であり、マスタリングから圧縮、プレッシング技術に至るまで、当時最高水準の音質で作成されました。ジャケット・デザインはデザイナーのジェイ・マイネルが手がけ、ボウイのアイコニックなビジュアル・イメージとも相まって、この時代の音楽文化を代表する一作となっています。

収録曲の聴きどころ

「Five Years」から物語は始まる

オープニングの「Five Years」は、地球の終末を知った男が世界の人々に別れを告げるという、アルバムの全体的なテーマを象徴する楽曲です。ピアノの響きから始まるこの曲は、一見シンプルながら、ボウイの歌唱力と楽曲の構成力が一体となった傑作です。ロンソンのギターは控えめながら、その存在感で楽曲を支えています。

「Starman」- アルバムの輝く中心

アルバムの中盤に置かれた「Starman」は、『ジギー・スターダスト』を代表する楽曲です。この曲の特筆すべき点は、ミック・ロンソンのギター・ソロの見事さにあります。ロンソンの鮮烈でメロディアスなフレージングは、単なるバック・ミュージックではなく、ボウイのボーカルと対等の存在として機能しています。シンセサイザーも効果的に使用され、宇宙的な音響空間が創出されています。

「Starman」はシングル・カットされ、特にイギリスで大きなヒットとなり、ボウイをスターダムへ導いた楽曲となりました。その後のステージでは、ボウイがジギーのコスチュームを纏いながらこの曲を演じることで、アート・ロックの新しい可能性を示しました。

「Suffragette City」- エネルギッシュなサヴァイヴァル

アルバムの終盤に配置された「Suffragette City」は、『ジギー・スターダスト』における最もダイレクトなロック・ナンバーです。轟くベース・ラインと、ロンソンの歪んだギター・リフが、ストレートなロック・エネルギーを全開で放出しています。ボウイのボーカルも、ここではジギーというキャラクターの生々しさを表現する、より肉感的なアプローチへ転換されています。

「Suffragette City」は、コンセプト・アルバムでありながら、シンプルなロック・ナンバーとしても完全に成立する素晴らしさがあります。ロンソンのギター・プレイは、ここでは装飾性よりも、グルーヴとロック・スピリットを優先させており、彼の多面的な才能の証となっています。

ミック・ロンソンの活躍

アルバムを通じて、ギタリスト・ミック・ロンソンの存在は不可欠です。彼は「All the Young Dudes」を始めとした複数の楽曲で、ボウイとの完全なアンサンブルを実現しています。その表現力は、クラシカルなフレージングからハード・ロック的な轟きまで、幅広いレンジを持ち、当時のギター・プレイの最先端を示していました。

「Jean Genie」や「Rock and Roll Suicide」といった楽曲では、ロンソンのギターが楽曲の構造的な中核となり、ボウイのボーカルとともに、楽曲の物語を形成しています。

オリジナル盤(RCA UK盤)の特徴

RCA UK盤の『ジギー・スターダスト』は、当時のプレッシング技術の最高水準を反映しています。以下は、このオリジナル盤の特筆すべき特徴です。

マスタリングとプレッシング品質

1972年のUKプレッシングは、DJMスタジオでのマスタリング・セッションの成果を直接反映しており、その音質は後続の盤と比較しても格段に優れています。特に、ロンソンのギター・ラインの微細なディテールが正確に記録されており、ハイ・エンドでのリッチなシマーとロウ・エンドでのバランスの取れた低音域再生が実現されています。

初期プレッシングは、EMIのハイフィデリティ・プレッシング技術を用いており、ビニールの厚みと安定性が優れていました。これにより、長年の再生を経ても、劣化に強い特性を示しており、今日でも多くのUKオリジナル盤が優れた音質を維持しています。

ジャケット・デザインとディテール

デザイナーのジェイ・マイネルが手がけたジャケット・デザインは、当時の音楽ジャケット・デザインの最高峰を示すものです。ボウイのアイコニックなビジュアル・イメージと、アルバムのコンセプトが完全に融合した傑作であり、のちのアルバム・アート・コンセプトの先駆けとなりました。

UK盤のプレッシング過程では、このビジュアル・イメージの再現にも細心の注意が払われており、特にジャケットのプリント品質とラッカー・シールの仕上がりは、当時の高級盤の象徴となっています。

レーベル・サイドとヴァリアント

UK盤のレーベル・デザインは、RCAの標準的なデザイン・ルールに従いながらも、アルバムのタイトルと楽曲情報の配置に工夫が見られます。初期プレッシングのレーベルには、「1A/1B」または「2A/2B」といったプレス・マーク情報が記載されており、これによってプレッシング・バッチの特定が可能です。

また、UK盤には複数のプレッシング・ヴァリアントが存在し、最初の1000部程度は特に音質が良好とされています。

レコードで聴く魅力

アナログ・サウンドの豊かさ

『ジギー・スターダスト』は、デジタル・リマスターの時代よりも、アナログ・オリジナルでの聴取こそが最適であることを示す、数少ないアルバムのひとつです。アナログ・レコードで再生される本作は、スタジオ・レコーディング・セッションでのプレゼンス感が格段に高く、ボウイとロンソンの息遣いまでが感じられるような、生々しい空間再現を実現しています。

特に「Starman」や「Suffragette City」といった楽曲では、ロンソンのギター・トーンの複雑さとニュアンスが、アナログ再生によってより鮮明に浮かび上がります。CD化やストリーミング配信では失われがちな、この微細な音響情報こそが、レコード再生の最大の利点であり、本作の真の魅力を引き出す要因なのです。

空間表現と定位感

当時のマルチトラック・レコーディング技術を駆使して製作された『ジギー・スターダスト』は、ステレオ・フィールドにおける楽器の配置が実に計算された設計になっています。ロンソンのギターは右チャンネルに、ベースは中央に、ボーカルもまた複数のトラックから構成される立体的な定位を持っています。

アナログ・レコード再生では、この三次元的な音響空間が、デジタル再生よりも自然な形で表現され、リスナーはあたかもコンサートホールの中央にいるかのような、immersiveな音響体験を得ることができるのです。

低音域から高音域までの周波数特性

1972年のマスタリング・セッションでは、当時の最先端のスタジオ機器が使用されました。その結果、UK盤プレッシングは、20Hzから20kHzに至る全周波数帯域において、実に優れた周波数特性を持つレコードとなっています。

特に、ロウ・エンドの質感は、多くの現代盤では再現できない、豊かで厚みのある響きを持ち、ハイ・エンドはシャープさと上品さを両立させた、見事なバランスを実現しています。

まとめ

David Bowie『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』は、1970年代のロック音楽において、最も革新的で影響力のあるアルバムのひとつであり、ミック・ロンソンのギタープレイとボウイのビジョンが完全に融合した傑作です。

アルバムとしての完成度、楽曲群のクオリティ、そして音響的な洗練さのいずれの観点からも、このアルバムは時代を超越した普遍的な価値を持ち続けています。特に、1972年のRCA UK盤のアナログ・レコード再生では、当時のマスタリングとプレッシング技術の粋が遺憾なく発揮され、現在でも多くのレコード・コレクターがこのオリジナル盤を珍重し続けているのは、まさにその音響的な優秀性と歴史的な価値の双方を認識しているからに他なりません。

レコード・コレクターとして『ジギー・スターダスト』を手に入れるなら、可能な限りオリジナルのRCA UK盤を求めることをお勧めします。その音響的な美しさと歴史的な意義は、デジタル再生では決して得られない、アナログ・レコード再生の最高峰の体験をもたらしてくれるはずです。

David Bowie関連のディスコグラフィ情報や、ロック音楽のより詳しい知識については、こちらをご参照ください。また、レアなプレッシング盤を探している方は、ビニール盤の購入ガイドも役に立つでしょう。

このアルバムは、音楽鑑賞とレコード・コレクションの両面において、必携の一枚です。


Digital & Analog in Harmony.

テクノロジーとカルチャーの交差点から、共鳴を生み出す。Harmonic Society は、アナログの温もりとデジタルの可能性を掛け合わせ、音楽と文化の新しい体験を届けています。姉妹サイト Harmonic Society Philosophy では古代から現代までの哲学を、Post Web3 ではWeb3・ブロックチェーンの専門分析を発信しています。