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My Badly Valentine『Loveless』- シューゲイザーの金字塔、Creation UK盤の魅力

My Bloody Valentineが1991年にリリースした『Loveless』は、シューゲイザーというジャンルを完成させた歴史的傑作です。圧倒的な音の壁と繊細なメロディが融合した本作は、ロック史に燦然と輝く金字塔として今なお多くのアーティストに影響を与え続けています。

アルバム概要

アイルランド出身のバンド、My Bloody Valentineが制作に2年以上を費やし、Creation Recordsのレーベル予算を破綻寸前まで追い込んだという伝説を持つアルバムです。リーダーのケヴィン・シールズが追求した革新的なギターサウンドは、何百もの多重録音と独自のトレモロアーム奏法によって生み出されました。

アルバムの制作費は当時のインディーレーベルとしては異例の25万ポンドに達したとされ、その完璧主義的なアプローチは音楽業界で語り草となっています。しかし、その投資は音楽史に残る傑作という形で報われました。リリース当初こそ賛否両論でしたが、時間の経過とともにその革新性が広く認められ、現在では1990年代を代表する最重要アルバムの一つとして確固たる地位を築いています。

本作の最大の特徴は、ギターの音色処理にあります。シールズは通常のエフェクター使用だけでなく、トレモロアームを緩めた状態でストロークし、その揺らぎを録音するという独自の手法を開発しました。この技術により、ギターでありながらシンセサイザーのような浮遊感を持つ、まったく新しいサウンドテクスチャーが誕生したのです。

収録曲の聴きどころ

アルバムはオープニング曲「Only Shallow」の轟音ギターリフで幕を開けます。イントロのドラムフィルから一気に放たれるノイズの奔流は、聴き手を別次元の音世界へと引き込みます。この曲で提示される「音の壁」というコンセプトは、アルバム全体を貫く重要なテーマとなっています。歪んだギターの層の中に埋もれるように配置されたヴォーカルは、楽器の一部として機能し、従来のロックバンドの編成概念を覆しました。

「Loomer」では、うねるようなベースラインとコリンダ・オキシジェンによる夢見るようなヴォーカルが印象的です。中間部の展開は催眠的で、シューゲイザーサウンドの本質を体現しています。ここでのギターサウンドは、まるで重力から解放されたかのように空間を漂います。

アルバムのハイライトの一つ「When You Sleep」は、破壊的なノイズと甘美なメロディが完璧に融合した名曲です。サビのメロディは信じられないほど美しく、同時に音圧は耳を劈くほど強烈です。この相反する要素の共存こそが、『Loveless』の神髄と言えるでしょう。ビルスタ・ダルジンのドラムプレイも、機械的な正確さと人間的なグルーヴを兼ね備えた見事なものです。

「Sometimes」はアルバム中最も静謐な瞬間を提供します。アコースティックギターとささやくようなヴォーカルで構成されたこの曲は、嵐のような轟音トラックの合間に配置されることで、アルバムに絶妙なダイナミクスを与えています。リバーブに包まれた音像は、まるで遠い記憶の中に迷い込んだような感覚を呼び起こします。

「I Only Said」では再び激しい音の壁が立ち上がり、クロージング曲「Soon」へと向かいます。「Soon」は後のエレクトロニカやIDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)にも影響を与えたとされるトラックで、サンプリングとループを駆使したリズムセクションが特徴的です。この曲は、シューゲイザーの枠を超えて、90年代の電子音楽との接点を示唆する先見性を持っていました。

オリジナル盤の特徴

Creation Records UK盤は、独特のマスタリングで知られています。ケヴィン・シールズ自身がマスタリングに深く関与し、最終的な音質バランスについて強いこだわりを持っていました。初版プレスは内ジャケットのデザインも美しく、アートワークにも細部まで配慮が行き届いています。ジャケットのぼやけたピンクとブルーの抽象的なイメージは、アルバムの音響的特性を視覚化したものと言えるでしょう。

レーベル番号はCRELP060で、Creation Recordsのロゴと共にレーベル面に刻印されています。重量盤仕様ではありませんが、当時のプレス品質は良好で、音溝の刻みも深く確実です。特に初期プレスは音質面での評価が高く、コレクターの間では高値で取引されることもあります。

マトリクス番号の確認も重要です。初回プレスには特定のマトリクスコードが刻まれており、それによって製造時期やプレス工場を特定できます。オリジナル盤を探す際は、盤面の状態だけでなく、これらの詳細情報もチェックすることをお勧めします。

また、本作はリリース後も何度か再発されていますが、2012年にケヴィン・シールズが完全監修したリマスター盤も評価が高いです。しかし、オリジナル盤が持つ生々しさと時代性は、やはり代えがたい魅力があります。

レコードで聴く魅力

『Loveless』をレコードで聴く体験は、デジタルフォーマットでは得られない独特の質感を提供します。特にアナログ盤では、シールズが追求した音の「温かみ」と「粗さ」の両立が最も効果的に再現されます。多層的に重ねられたギタートラックの一つ一つが、レコード針を通すことでより有機的に結合し、立体的な音像を形成します。

「Only Shallow」の爆発的なイントロは、レコードのダイナミックレンジを最大限に活用しており、針飛びしない範囲でギリギリまで音圧が押し込まれています。この物理的な限界への挑戦が、かえって音楽的な緊張感を生み出しているのです。

アナログ再生特有の僅かな歪みやノイズも、本作の美学と見事に調和します。完璧すぎないサウンドこそが、シューゲイザーの本質であり、レコードというメディアはその哲学と完璧に一致しています。静かなパッセージと轟音パートの対比も、アナログの温かみのあるコンプレッションを通すことで、より自然に感じられます。

B面の「Soon」に針を落とす瞬間の期待感、そしてアルバムの余韻が静寂へと消えていく瞬間まで、レコードならではの儀式的な体験が、作品の持つ神秘性をさらに高めています。

音質面でも、適切なオーディオシステムで再生すれば、中低域の豊かさとハイエンドの煌めきが絶妙にバランスし、シールズが意図した音響世界が眼前に広がります。特にヴォーカルの埋もれ具合や、ギターの音像の広がりは、アナログならではの空間表現によって理想的に再現されます。

まとめ

My Bloody Valentineの『Loveless』は、音楽制作の可能性を極限まで追求した結果生まれた、真の芸術作品です。発売から30年以上が経過した今もなお、その革新性は色褪せることなく、新しい世代のリスナーを魅了し続けています。シューゲイザーというジャンルの完成形であると同時に、ロック音楽の表現領域を拡張した歴史的マイルストーンでもあります。

Creation Records UK盤のオリジナルプレスは、サウンドとアートワークの両面で最高の体験を提供します。予算が許すなら、ぜひ初期プレスを入手することをお勧めしますが、後年のリイシューも十分に素晴らしい音質を備えています。

レコードという物理メディアで『Loveless』を体験することは、この作品の本質に最も近づく方法の一つです。轟音と静寂、美と破壊、精密さと偶然性が同居するこの奇跡的なアルバムを、ぜひターンテーブルの上で回してみてください。それは単なる音楽鑑賞を超えた、感覚的な冒険となるはずです。

My Bloody Valentineが創造したこの音の宇宙は、時代を超えて聴き継がれるべき宝物であり、レコードコレクションの中核を成すに相応しい一枚と言えるでしょう。


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