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Radiohead『OK Computer』- 現代社会への警鐘を鳴らした不朽の名作

Radioheadの3rdアルバム『OK Computer』は、1997年6月にリリースされ、90年代ロックの最高到達点として広く認められています。「Paranoid Android」をはじめとする革新的な楽曲群は、テクノロジー社会の不安と疎外感をテーマに、時代を超えた普遍的なメッセージを発信し続けています。

アルバム概要

『OK Computer』は、RadioheadがイギリスのParlophone Records(EMI)からリリースした3作目のスタジオアルバムです。前作『The Bends』(1995)で確立したロックバンドとしての地位をさらに発展させ、より実験的で野心的なサウンドを追求しました。プロデューサーには、前作に引き続きナイジェル・ゴドリッチとバンド自身がクレジットされています。

ゴドリッチは、この時まだ20代の若手エンジニアでしたが、Radioheadのビジョンを完璧に理解し、実現する能力を持っていました。彼のプロダクションは、バンドの生々しいエネルギーと電子音楽的な要素を見事に融合させ、以降Radioheadの全アルバムで重要な役割を果たすことになります。

録音は、イングランド各地のスタジオと、15世紀の邸宅セント・キャサリンズ・コートで行われました。特にこの歴史的な建物での録音は、アルバムに独特の空間性と雰囲気をもたらしました。大きなホールで録音されたドラムサウンドや、建物の響きを活かしたアンビエントなテクスチャーは、スタジオ録音では得られない有機的な質感を持っています。

アルバムタイトルの『OK Computer』は、ダグラス・アダムスのSF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』に登場するフレーズから取られています。この言葉が示すように、アルバムは人間とテクノロジーの関係、グローバリゼーション、疎外感、資本主義といったテーマを扱っており、97年当時の社会状況を鋭く反映していました。そして驚くべきことに、これらのテーマは現代においてますます重要性を増しています。

リリース直後から批評家の絶賛を受け、UKチャートで初登場1位を獲得しました。グラミー賞のBest Alternative Music Albumを受賞し、Rolling Stone誌やNME誌など多くのメディアで「年間最優秀アルバム」に選出されました。現在では、20世紀のロック音楽を代表する金字塔として、音楽史に名を刻んでいます。

収録曲の聴きどころ

アルバムは「Airbag」で幕を開けます。この曲は、トム・ヨークが交通事故を経験した後に書かれたもので、テクノロジーによって命を救われることのアイロニーをテーマにしています。フィル・セルウェイのDJ Shadowからインスパイアされたドラムループと、ジョニー・グリーンウッドのノイジーなギターが絡み合い、アルバムの幕開けにふさわしいインパクトを与えます。

「Paranoid Android」は、アルバムを代表する楽曲であり、Radioheadのキャリアの中でも最も野心的な作品のひとつです。6分23秒の長さの中に、複数のセクションが組み込まれており、まるでプログレッシヴロックのような複雑な構成を持っています。「Kicking, squealing, Gucci little piggy」という皮肉に満ちた歌詞は、物質主義と空虚さを批判しています。中盤のアコースティックセクションから、終盤の爆発的なギターソロへの展開は圧巻です。

「Subterranean Homesick Alien」は、ボブ・ディランの「Subterranean Homesick Blues」へのオマージュがタイトルに込められた楽曲で、エド・オブライエンのアンビエントなギターテクスチャーが特徴的です。エイリアンの視点から地球を観察するという歌詞は、現代社会への疎外感を象徴しています。

「Exit Music (For a Film)」は、バズ・ラーマン監督の映画『ロミオ+ジュリエット』のために書かれた楽曲です。アコースティックギターとトムの繊細なヴォーカルで静かに始まり、徐々にシンセサイザーとドラムが加わって壮大なクライマックスへと至ります。「We hope that you choke」という強烈な歌詞は、抑圧的な権力への反抗を表現しています。

「Let Down」は、アルバムの中で最も美しくも哀しい楽曲のひとつです。3人のギタリストによる複雑に絡み合うアルペジオと、トムの感情的なヴォーカルが印象的で、「Transport, motorways and tramlines / Starting and then stopping」という歌詞は、現代生活の単調さと幻滅を歌っています。

「Karma Police」は、シングルカットされた楽曲で、エド・オブライエンのエレクトリックピアノとトムのヴォーカルが中心となった比較的シンプルな構成です。「This is what you get when you mess with us」という繰り返しのフレーズは、因果応報のテーマを扱っています。終盤のノイズセクションは、カオスと崩壊を音で表現しています。

「Fitter Happier」は、コンピューターの合成音声が無感情に自己啓発的なフレーズを読み上げる、2分間のインターリュード的な楽曲です。バックには、コリン・グリーンウッドのピアノが静かに流れ、現代社会における人間性の喪失を皮肉っています。この曲は、アルバムのテーマ性を最も直接的に表現したものと言えるでしょう。

「Electioneering」は、アルバムの中で最もストレートなロックナンバーで、政治とメディア操作をテーマにしています。ジョニー・グリーンウッドの攻撃的なギターリフと、トムの叫びに近いヴォーカルが特徴で、アルバム全体のダイナミクスにアクセントを加えています。

「Climbing Up the Walls」は、アルバムの中で最もダークで不穏な楽曲です。精神疾患と暴力をテーマにしており、弦楽四重奏が不協和音を奏でるクライマックスは、まるで心の崩壊を音で表現しているかのようです。ジョニー・グリーンウッドのオンド・マルトノも使用されています。

「No Surprises」は、美しいメロディと絶望的な歌詞のコントラストが印象的な楽曲です。グロッケンシュピールの可愛らしい音色と、「A job that slowly kills you」という歌詞は、現代社会の抑圧と諦念を表現しています。ミュージックビデオでは、トム・ヨークのヘルメットに水が満ちていく映像が話題となりました。

「Lucky」は、ボスニア紛争の被害者支援チャリティアルバムのために先に録音され、リリースされた楽曲です。アルバムの中では比較的希望を感じさせる曲で、「Pull me out of the aircrash」という歌詞は、困難からの救済を求めています。

アルバムを締めくくる「The Tourist」は、現代生活のスピードとそれに対する警告をテーマにしています。「Slow down」という繰り返しのフレーズは、立ち止まって考えることの重要性を訴えています。最後のチャイムの音が、アルバム全体に静かな余韻を残します。

オリジナル盤の特徴

オリジナルのParlophone UK盤『OK Computer』は、1997年6月16日にリリースされました(北米では7月1日)。カタログナンバーはNODATA01(LP)、7243 8 55229 1 5(バーコード付き版)です。ヴァイナル版は2枚組で、ゲートフォールドジャケット仕様となっています。収録時間が53分を超えるため、LPでは各面に3曲程度ずつ配分され、音質を保つための配慮がなされています。

ジャケットアートワークは、スタンリー・ドンウッドとトム・ヨークの共作で、抽象的でありながらも不穏なビジュアルです。内側には、アルバムのテーマを視覚化した様々なイラストやコラージュが配されており、歌詞とともにアルバムの世界観を深める役割を果たしています。4ADレーベルのアートワークと並んで、90年代ロックアルバムの優れたデザインの代表例です。

マトリクスエリアには「ABBEY ROAD」の刻印が見られることが多く、これはビートルズで有名なアビーロード・スタジオでカッティングされたことを示しています。初期プレスは、音の分離が良く、特にジョニー・グリーンウッドの多彩なギターサウンドと、コリン・グリーンウッドの重厚なベースラインが明瞭に聞こえるのが特徴です。

レコード用語集で解説されているように、2枚組アルバムの場合、各面の収録時間が短くなるため、グルーブの幅を広く取ることができ、音質的に有利になります。『OK Computer』のオリジナル盤は、この利点を最大限に活かした高音質プレスとして知られています。

2016年には、オリジナルアナログマスターから新たにカッティングされた「XL Recordings」版がリリースされました。2017年には20周年記念盤「OKNOTOK」が発売され、未発表曲やデモ音源が追加されました。しかし、音質面では1997年のオリジナルUK盤が最も評価が高く、特に初期プレスはコレクターズアイテムとして高値で取引されています。

レコードで聴く魅力

『OK Computer』をレコードで聴く最大の魅力は、アルバムの持つ複雑な音響空間を余すことなく体験できることです。ナイジェル・ゴドリッチのプロダクションは、電子音とアナログ楽器を巧みに融合させており、アナログ盤で聴くとその繊細なバランスが明瞭に感じられます。デジタル圧縮によって失われがちな音の空気感や、微細なテクスチャーが、レコードでは豊かに再現されるのです。

ジョニー・グリーンウッドのギターワークは、Radioheadのサウンドの中核をなす要素です。クリーントーンからディストーション、エフェクトを多用したアンビエントなテクスチャーまで、彼のギターは多彩な表情を見せます。アナログ盤で聴くと、「Paranoid Android」のギターソロの迫力や、「Subterranean Homesick Alien」のエコーのかかったギターの空間性が際立ち、楽曲の持つ情感がより深く伝わってきます。

トム・ヨークのヴォーカルも、アナログ盤で聴くと新たな魅力が発見できます。繊細なファルセットから力強いシャウトまで、彼の声の多様性は、アナログ特有の温かみによってより人間的に感じられます。「Exit Music (For a Film)」の静かなヴァースでの息づかいや、「Climbing Up the Walls」の終盤での叫びは、レコードで聴くと身体に響くようなリアリティを持ちます。

コリン・グリーンウッドのベースラインは、しばしば楽曲の土台として機能しますが、アナログ盤で聴くとその存在感が明確になります。「Airbag」のグルーヴや、「Let Down」のメロディックなベースラインは、良質なプレスで聴くと楽曲全体の立体感を支える重要な要素として聞こえてきます。

フィル・セルウェイのドラムは、ジャズの影響を受けた繊細なプレイから、力強いロックビートまで幅広く、その多様性がアナログ盤では際立ちます。「Airbag」のループ的なビートや、「Electioneering」のパワフルなドラミングは、アナログ特有のダイナミックレンジの広さによって、より生々しく聞こえます。

また、2枚組ヴァイナルという物理的な形態が、アルバムの聴取体験に独特のリズムを与えます。各サイドが10〜15分程度で区切られることで、アルバムの長大な流れが自然に分節化され、それぞれのセクションを集中して聴くことができます。盤を裏返す行為や、次のレコードに交換する時間が、音楽と向き合うための間を提供してくれるのです。

Radioheadというバンドの音楽的頂点のひとつを、オリジナルのアナログフォーマットで聴くことは、90年代ロックシーンの豊かさと、音楽の持つ社会的メッセージ性を再発見することにつながります。レコード購入ガイドも参考にしながら、オルタナティヴロックの名盤コレクションを充実させていきましょう。

まとめ

Radioheadの『OK Computer』は、90年代ロックの最高到達点であり、時代を超えた普遍的なメッセージを持つ作品です。テクノロジー社会の不安、疎外感、人間性の喪失といったテーマは、1997年当時よりも現代においてより切実なものとなっています。音楽的には、ロックバンドとしての力強さと、電子音楽的な実験性が見事に融合し、後のRadioheadの方向性を決定づけました。

Parlophone UK盤オリジナルのヴァイナルは、この複雑で美しい音楽を最も豊かに再現できるメディアです。2枚組による音質の向上、ダイナミックレンジの広さ、そして何よりも「Paranoid Android」「Karma Police」「No Surprises」といった名曲を、バンドが意図した形で体験できることが最大の価値です。

このアルバムを起点に、次作『Kid A』やPixiesなど、Radioheadに影響を与えた、あるいは影響を受けたバンドの作品を掘り下げていくのもおすすめです。オルタナティヴロックの深遠な世界が、あなたを待っています。


Digital & Analog in Harmony.

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