Yes『Close to the Edge』- プログレッシブロックの最高峰
はじめに¶
イギリスの伝説的プログレッシブロックバンド、Yesが1972年にリリースした『Close to the Edge』は、ロックアルバムの歴史において最高峰に位置する傑作です。このアルバムは、音楽の複雑さと美しさを兼ね備え、プログレッシブロックというジャンルの可能性を極限まで追求した記念碑的作品として認識されています。
特に印象的なのは、A面全体を占める18分間のタイトル曲「Close to the Edge」です。この曲は、単なる長尺曲ではなく、古典音楽の構成美とロックの躍動感を融合させた、極めて洗練された楽曲構成を持っています。またロジャー・ディーンによる印象的なジャケットアートは、アルバムのイメージを完璧に象徴し、ビジュアル面でも優れた完成度を示しています。
本レビューでは、Atlantic UK盤を中心に、このマスターピースの魅力を詳しく解き明かしていきます。
アルバム概要¶
Yesは1960年代後半にロンドンで結成された5人組のプログレッシブロックバンドです。Yesについての詳細はこちらをご参照ください。
『Close to the Edge』は、Yesの4枚目のスタジオアルバムで、バンドの黄金期を象徴する作品です。1971年の『Fragile』で確立した高い音楽性をさらに深化させ、より実験的で複雑な構成へと進化させました。
このアルバムは、1972年の音楽シーンにおいて革新的な作品となりました。当時、プログレッシブロックはクラシック音楽的な知識とロックの躍動感を融合させることで、新しい芸術表現として台頭していた時期です。『Close to the Edge』はその流れを最も高い次元で具現化した、圧倒的な芸術性を備えた傑作なのです。
収録時間は約40分間。限られたスペースの中で、3曲の構成で最大限の表現力を発揮しています。各曲が独立した世界観を持ちながらも、アルバム全体として統一された美学を保ち、聴き手を別の次元へと誘う音世界となっています。
収録曲の聴きどころ¶
「Close to the Edge」(18分27秒)¶
アルバムの中心を占める大作です。この曲は、五部構成の楽曲として知られており、以下のような流れで展開します。
冒頭の静謐なピアノのイントロから始まります。ジョン・アンダーソンの透明感のあるボーカルが静かに歌い上げ、聴き手の意識を集中させます。その後、徐々にバンド全体が参入し、複雑なシンフォニック展開へと発展していきます。
キーボードのリック・ウェイクマンが弾くピアノとムーグシンセサイザーは、この曲の音響的な魅力の中核を担っています。ベースのクリス・スクワイアの重厚で音楽的なベースラインと、ドラムスのアラン・ホワイトのダイナミックな演奏が、複雑な変拍子の中でも揺るがない確固たるリズムを形成しています。
中盤の高揚感あふれる展開では、ギターのスティーヴ・ハウが情感的で音楽的なプレイを披露し、東洋音楽的な浮遊感を表現しています。後半へ向かうにつれ、各楽器が複雑に絡み合い、音の密度が増していきます。
最後の部分では、再びシンプルな歌唱へと還元され、静かに終わります。この曲は、プログレッシブロックという音楽ジャンルが何であるかを、最も雄弁に物語る作品です。
「And You and I」(10分16秒)¶
このトラックは、アルバムの第2曲目に配置されています。タイトル曲の圧倒的な迫力の後、音楽的な角度から異なるアプローチで聴き手を魅了する構成になっています。
ここでは、バンドメンバーの楽器的な技術性がより際立ちます。複数の楽器が同時に異なるメロディーを奏でながらも、全体として一つの完成された楽曲として機能しています。このような音楽的複雑さを表現するために使用される用語が「プログレッシブロック」です。
中盤の瞑想的なセクションでは、オーケストラのような音響効果が生み出され、聴き手は音の波に包まれるような感覚を体験します。
「Siberian Khatru」(7分54秒)¶
アルバムのラストを飾る楽曲です。高速の技巧的な演奏と、複雑な構成が特徴です。ドラムスが高速でパターンを刻み、その上でギター、キーボード、ベースが絡み合います。
この曲は、バンドメンバーの演奏技術の高さを最も直接的に示す作品です。リック・ウェイクマンのキーボード演奏の超絶技巧や、スティーヴ・ハウのギター技術、クリス・スクワイアのベース技術が、圧倒的な迫力で展開されます。
アルバムの最後を、この高揚感とエネルギッシュな楽曲で締めくくることで、『Close to the Edge』は一つの完全な芸術作品として完結します。
オリジナル盤の特徴¶
Atlantic UK盤は、このアルバムの最初期のプレスで、特に高い音質を誇ります。当時のアナログ盤のプレスとしては最高水準の仕上がりを示しており、ジャケットもロジャー・ディーンによる印象的なアートワークがガウスペーパーの上に精密に再現されています。
ロジャー・ディーンのジャケットデザインは、抽象的な自然風景を描きながらも、アルバムの音楽的内容を視覚的に表現しています。浮遊感のある幾何学的な構成と、有機的な曲線が融合し、プログレッシブロックの複雑さと美しさを象徴する傑作となっています。
レーベル側面の印字も鮮明で、プレス番号の確認から盤の真正性を判定できます。初期プレスは、後のプレスと比較して、音溝の深さや vinyl の黒さにおいても優れており、音響性能の観点からも高く評価されます。
レコードで聴く魅力¶
『Close to the Edge』は、特にアナログレコード盤での鑑賞が強く推奨されるアルバムです。デジタル化によっていくつかの情報が失われた時代を経た今だからこそ、オリジナルのアナログ盤で再び向き合うことの重要性が認識されるようになっています。
音の立体感と空間表現¶
アナログレコード盤でこのアルバムを聴くと、スタジオでの録音時に意図された音の立体感と空間表現が生き生きとよみがえります。複数の楽器が異なる音響空間に配置されながら、全体として統一された音場を形成している様子が明確に認識されます。
キーボードのレイヤーが複数存在していることや、ベースがボーカルとは異なる音響領域に配置されていることなど、スタジオ録音時の細かな意図が、アナログ再生を通じて初めて明確に知覚できるのです。
変拍子の躍動感¶
このアルバムの特徴の一つが、複雑な変拍子の使用です。アナログレコード盤で鑑賞すると、これらの複雑な拍子構成がもたらす音楽的な躍動感と緊張感が、より生々しく伝わってきます。
デジタル再生では平坦になりがちなリズムセクションの微妙なニュアンスが、アナログ再生では躍動感のあるグルーヴとして認識され、聴き手の身体的な反応を誘発させるのです。
動的レンジの豊かさ¶
このアルバムは、非常に幅広いダイナミックレンジを備えています。静寂に近い部分から、バンド全体の圧倒的なパワーが炸裂する部分まで、その変化の幅が実に豊かです。
アナログレコード盤での再生は、このダイナミックレンジを最も自然な形で表現します。圧縮に晒されたデジタル音源では消失してしまう微妙な音響的情報が、アナログ盤に刻み込まれたミクログルーブから再生されることで、当初の音響設計が完全に復元されるのです。
楽器音の質感¶
特に注目したいのは、各楽器音の質感です。ジョン・アンダーソンのボーカルの息遣いや、リック・ウェイクマンのキーボード音の繊細なニュアンス、スティーヴ・ハウのギター音の温かみなど、これらはアナログレコード盤で初めてその全容が明らかになる要素です。
Atlantic UK盤の初期プレスは、このような楽器音の質感を最高水準で記録し、再現する能力を備えています。
まとめ¶
Yes『Close to the Edge』は、単なるプログレッシブロックの傑作ではなく、1970年代という時代を代表するロック音楽の最高峰作品です。このアルバムが提示した音楽的可能性と芸術的視点は、その後のプログレッシブロック発展に大きな影響を与え、今日までその価値は衰えていません。
18分間のタイトル曲をはじめとする各楽曲は、複雑さと美しさが両立する、極めて洗練された楽曲として完成しており、聴き直すたびに新たな発見と感動をもたらします。
Atlantic UK盤のアナログレコードでこのアルバムを鑑賞することは、スタジオでの録音当初の音響設計を最も忠実に再現する方法です。ロジャー・ディーンによる印象的なジャケットアートと相まって、『Close to the Edge』は、音楽とビジュアルが完全に統合された、20世紀を代表する芸術作品としての価値を持っています。
プログレッシブロックに興味を持つすべての音楽愛好家にとって、このアルバムはレコード媒体での体験を通じて、初めてその真価を理解できる作品です。ぜひオリジナル盤での鑑賞をお勧めします。
関連資料¶
Digital & Analog in Harmony.
テクノロジーとカルチャーの交差点から、共鳴を生み出す。Harmonic Society は、アナログの温もりとデジタルの可能性を掛け合わせ、音楽と文化の新しい体験を届けています。姉妹サイト Harmonic Society Philosophy では古代から現代までの哲学を、Post Web3 ではWeb3・ブロックチェーンの専門分析を発信しています。